東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1709号 判決
控訴人は民法第五百二十六条第二項の適用によつて組合員となつた旨主張する。(証拠)……を綜合すれば、控訴人は昭和二十二年七月頃まで前記窪田藤平に対して組合費名義や臨時修繕費名義で支払をなし、昭和二十一年頃組合の揚水モーターが盗難にかかつた際には、その善後措置について卒先して組合のために斡旋し、またその頃預金の封鎖がなされたとき控訴人が組合の電力料金を立替え支払つた等の事実を認めることができる。しかしながら、成立に争のない甲第五号の一、二、原審及び当審証人窪田藤平の証言並びに当審における被控訴本人尋問の結果と弁論の全趣旨を綜合すれば、組合管理人たる窪田藤平は後記認定のような控訴人と株式会社小糸製作所との間の売買契約についての紛争を何等知らないで、控訴人は同会社から和光園地域内の土地建物等を買い受けその建物に居住するに至つたものであるから、いずれは組合員になるものと予想し、従来どおり温泉や水の供給を続けるとともに、控訴人から組合費名義の金銭や設備修理費を徴収してきたものであり、また控訴人の組合のために尽した前認定の行為は控訴人の立場からすれば、組合に貢献するつもりで犠牲を払つたものであろうけれども、家族だけを残し多くは他出していた組合役員や一部組合員からすれば、組合理事者を差しおいての干渉がましい所作であつたことを窺うことができる。元来民法第五百二十六条第二項は申込者の意思表示又は取引上の慣習によつて承諾の通知を必要としない場合に承諾の意思を客観的に推測せしめるに足る事実があれば、そのときに契約が成立することを定めたもので、当事者の意思を忖度し、また取引の迅速を計ろうとする制度にほかならない。講学上意思実現による契約の成立と呼ばれるゆえんである。本件において、控訴人が組合役員又は組合員から特に組合員でないことを指摘されず、控訴人自身も三年有余に亘り組合員たることについて危惧の念を抱いたことがなかつたとしても、前認定のような事実関係のもとにおいては、組合側に控訴人の組合加入を承諾する意思を客観的に推測しうる事実があつたものと断定することはできない。従つて民法第五百二十六条第二項は本件に適用すべき限りでないので控訴人の右主張は採用しない。
(浜田 仁井田 伊藤)